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KAI BAND 45th Anniversary Tour HEROES 2019 2019.11.23 神戸国際会館


夏のツアーは諸事情により行けなかったので個人的には気合が入る。

だからわしは前過ぎる席は好きではないのだ。

まあステージ全体が見え、尚且つ角度的に美味しかったのでよしとするが。


SEは全編ストーンズ。知ってる曲ばかりなのは落ち着くのだが、久しぶりのホールでありなんとなく緊張したりもする。こういう緊張感はおそらくずっと変わらないのだろう。


っと、このツアーはパーカッションとギターが入るのね。パーカッションはMACだとして、ギターはここのところ稲葉さんが続いている。夏のツアーとは構成が変わるんだな。ドラム二枚にパーカッション、ベース、そしてギター二枚にキーボード。甲斐バンドらしいっちゃあらしいリズム隊に偏重した構成である。


さていよいよ開演である。前野さんを先頭にメンバーが出てくる。

やはり稲葉さんだった。


1.キラーストリート

ドラムの後ろから歩み出る甲斐よしひろ。岡沢さんのベースが腹に響く。芯。スピーカーに近いだけではなく、1ROのギターが弾ける。狂気。語弊があるだろうか。音が何かを突き破った。ツインドラムはシンクロしながらそれぞれの動き。強一の右腕の動きがかっこいい。


2.野獣

久しぶりの12in.ヴァージョンではあるが、うねりは抑えてある。基本アレンジは12in.であるが、その実シングル/アルバムヴァージョンとの折衷というのが正しいのではなかろうか。やはり1ROのギターが弾けている。


3.ダイナマイトが150屯

既にこの辺で長袖を着ているのがミステイクだと気づく。野獣にしろダイナマイトにしろ、以前であればグルーヴ感を前面に押し出していただろうが、ここのところそれは抑えてある。がっちり安定したリズムである。当然甲斐さんはスタンドを回す。


4.らせん階段

やはり1ROのギターが凄い。土台/リズム隊が強いから弾けやすいのか、目を見開くほどの弾け方である。初期の曲でありながら何度もアレンジ/レコーディングを繰り返し、全く違う曲になった感がある。甲斐よしひろの心情さえ、この唄のもつ意味すら変わっているのではなかろうか。


5.ナイト・ウェイヴ

しかし感心するのはこの曲の懐の深さである。後奏がベースギターキーボードギター(’86までは→サックスだったが)となる流れは同じだが、そこに誰が入ろうがどう弾こうがきっちりと形が出来上がってしまう。前野さんはハモンドだったが、そこに驚嘆と感心はあれど違和感はない。「ほお〜♪」なのである。


6.シーズン

氷〜ポップコーンのセットも定番だが、地味にこの2曲のセットも定番である。まあわしはこの後ビューティフルかな〜とか思ってたりもしたのだが。しかしこの日はひたすら1ROの音が聴こえる。これだけ前に出たのはちょっと記憶にない。


7.裏切りの街角

甲斐さんの背中でタイミングが見えるんだろうか。rit.だけどその辺は甲斐さんのアドリヴも入るだろうに...合うんだな。


8.そばかすの天使

出だしでやらかす。アレンジ変えたのかなと思ったけど後方から笑顔で諭すドラマーの表情で判った。1ROのギターはキレていた。


9.観覧車’82

この入り好きだな〜もはや「’82」という年号が正しいのかどうか知らないけど。335のアルペジオにややも感傷的になるのは防げない。でも後奏でその感傷を吹き飛ばす。このアッパー感が「’82」なのかもしれない。


10メガロポリス・ノクターン

「着席!」ドラムの松藤さんだがフライヤーはギターなのである。今にして思うが、この曲のタイトルは相当かっこいい。やはり聴こえるアコギ。松藤さんの音で「その時の」バンドのコンセプトが見えるような気がする。


11.安奈

強一はブラシ。アコギなのに音に厚みが出る摩訶不思議。ニヤリとせずにはいられない。


12.ティーンエイジ・ラスト

間奏は当然ツイン・ギター。

重荷抱えてでも守りたい大事な想い。


13.三つ数えろ

分厚い。ホンキートンクも厚みを増す要素かもしれないが、とにかく分厚い。


14.氷のくちびる

レスポ。間奏で甲斐バンドの三人の見せ場。脂が乗ったドラム、という言い方には語弊があろうか。音の太さ以外にも何かが乗っている。二人の色分けはなかった。


15.ポップコーンをほおばって

ツインドラムがたまらなくかっこいい。ツインドラムとベースとパーカッション。どこに乗っても間違いようがない。1ROは腕を振り回さなかった。「キメ」がない事に驚きつつも変な納得。


16.翼あるもの

1ROは間奏のリフを弾くのが大好きなのだと想う。フレーズも、それを弾いていた人も、このバンドも、全部。


17.HERO

この曲からでも40年。当時小学生のわしが初めて触れた甲斐バンド。詰まる所、HEROであろうとする人間でなければ信用もできないし、まして、愛する事などできないのだ。自分も含めて。


E1.嵐の季節

後方からのライト。サンプリングの声。拳を握る手には汗。


E2.きんぽうげ

カウベル。ふと時間の経過に気がつく。いつの間にかアンコールだった。ここまで20曲弱。ツインギターは下手に、甲斐さんは上手に。


E3.漂泊者

分厚い音に気圧される。脆弱な唄なのに。



E4.破れたハートを売り物に

ここのところのトライアングルなマイクの配置。何度聴いても不思議なのが、それぞれに癖のある甲斐松藤両名の声が合わさると滑らかに聴こえてしまう事。この日は特に滑らかだった。ソロやFiveでのこの曲に違和感を覚えたのは多分そういう事だったのだろう。20年とか30年前の事だ。歴史といえば歴史。


E5.熱狂

ミラーボールはなかったが、星空モチーフの照明。エンディングも重くなり過ぎず、to be continuedなのだ。


音の厚みと1ROの突き抜け方が凄かった。

しかも2時間22曲、あっという間だった。

アンコールに入っている事をきんぽうげで気づくほど。

メンバーそれぞれの演奏や動きを断片的に思い出してみるが、途中から疎らである。

まあこの辺りの血の上り方はいつものことでもあるのだが、今回は特に酷い。

ホールの音が良かったのもあるのか、ただ単に乗ってしまったのか。

いずれにしろ、体感的には最速で終わった感である。



さて。

「甲斐バンド」は有り体に言えばロックバンドである。ここに異論も疑問もない。

しかし。

「どのような」という枕が付くと、途端に難しい。

当の本人たち、甲斐よしひろは元より、バンドのメンバーも恐らく、客観的なスタイルを表す言葉が判らないだろう。wikipediaでロックのジャンルを検索してみる。


103項目もあるらしい(笑)

詳細まで読む気にはならないが(爆)、およそ1/3ぐらいは該当するような気がするのは果たしてわしだけだろうか。

ストーンズを評したミック・ジャガーの金言は、そっくりそのまま甲斐バンドにも当て嵌る。だからこそのSEだったのかも知れない。ストーンズをジャンルに分類すればストーンズであり、甲斐バンドも同様に甲斐バンドなのである。

ここ数年の甲斐バンドの活動を顧みればよく解る。

詳細は過去のレポを読んでもらえればいいのだが(笑)、Street bandな側面であったり、Club bandな側面であったり、City bandな側面であったり。多様な切り口、引き出しのそれぞれをテーマに据えていたのが平成終盤の甲斐バンドの活動ではなかったか。

では令和元年、如何なる甲斐バンドを示していたのか。


本来であれば夏のTourも含めて考察すべきなのだろうが、残念ながら観れなかったのであくまでもこのTourにおいて感じたこと、と制限されてはしまうのだが。


まず第一に考えたいのは、構成である。

岡沢さんのベースの安定感はいつもながらだが、その音時代の響きも強かった。これがバンド・サウンドの基礎となる事に疑いはない。そしてドラム二枚にパーカッション。上でも指摘したが、メンバー8人の内4人がリズム隊である。そしてギター二枚にキーボードのメロディ隊、更にヴォーカルの甲斐よしひろ。

図にして示せばこうなるか。


       ヴォーカル


   ギター キーボード ギター


ドラム パーカッション ベース ドラム


ここ十年ほど、グルーヴよりも安定した音の上で唄う傾向の甲斐よしひろであったが、それが着き詰まったのがこの形、と言ってもいいだろう。唄い易い、だけではないだろうが、甲斐よしひろの声はいつも以上に通っていた感触である。これに対して、通っているどころではなかったのが1ROのギターである。突き抜けた、端的に言えばそんな表現が妥当である。唄っていようが叩いていようが弾いていようが全部聴こえる松藤さんも、かなり尖ったドラムを叩いていた。甲斐バンドの三人が、皆エッジを効かせていた、ように思う。


しかしこれに対し、ベースの響きに対しても、MAC、前野さん、稲葉さんは控えめだったように思う。MACは翼あるもののオープニングで、以前は気合が見えるほどに叩いていたが、今回はそこまで叩いていない。前野さんのキーボードも同様である。ポップコーンでも控えめ、三つ数えろのホンキートンクも音自体は控えめだった。稲葉さんもだ。ツインギターでの間奏では流石の演奏であるが、それ以外ではほとんど前に出ない。そして誰より目を引いたのは、強一である。強靭な太い音を叩くのは周知の事実である。ダニーボーイは強一のドラムを以て生まれ変わったのだ。その強一ですら。

甲斐バンドの三人がエッジを効かせ、他のメンバーはややも控えめ。甲斐松藤1ROの三人を頂点とした三角形。これを同様に図示すれば、こうなる。


       甲斐


   前野  岡沢  稲葉     


1RO   強一  MAC   松藤


またグルーヴ云々を引き合いに出すが解りやすいのでここはご容赦願いたい。グルーヴを利かせていた頃の音はうねりと絡みを持った音の束であり、例えるなら極太の荒縄である。出雲大社の注連縄がもっと太くなって向かってくる感じ…では伝わりにくいだろうか。各メンバーがそこここにぐいぐいと顔を出してくる感じである。

対して今回の音は、うねり揺らぎはさほどないが、鋭角的なエッジを持った安定感のある三角柱、時には三角錐である。メンバーは確かにそこにあるのだが、ぐりぐり出てくるのではなく、安定して音の面を滑沢化させるように、隙間や凹凸を埋めていたように思う。


この点で、エッジと面の滑沢化の双方に寄与する器用なリードオフマンがいた事は指摘しておきたい。ちょっと洒落てみた。誰がどうしてそうなったのかは知らないが、この日の松藤英男はドラムではエッジを効かせ、コーラスでは滑らかに甲斐よしひろの声に合わせていた。噛んだ時も。ギターを弾いてもそうである。音に厚みは加えるものの、まぜ返すようなうねりは加えていなかった。その角と面に合わせるように他のメンバーが音を重ねた結果がこうなったように思える。


三角形のそれぞれの頂点は当然ながら甲斐バンドの三名、甲斐よしひろ、松藤英男、田中一郎である。頂点として在る為には、当然ながらそこにそれぞれの個性が無ければならない。それは解りきっている事だが、今回のツアーはそれが殊更強調されていたのではないか。


個性。

それがキーワードとされたアルバム。わしはそれを思い出した。

Repeat & Fade」。

四名のメンバーがそれぞれにプロジェクトを持ち、それぞれが12in.シングルを一枚ずつ作製したという暴挙にも等しい、甲斐バンド「最後の」アルバム。Secret Gigのオープニングであったキラー・ストリート。12in.シングルに収録された野獣、ナイト・ウェイヴ、そして破れたハートを売り物に。「Repeat & Fade」収録であり、甲斐バンド「最後の」シングルであるメガロポリス・ノクターン。これらの曲が連想させたのかもしれないが、甲斐バンドの個々の活動をもって集大成とした「Repeat & Fade」とこのツアーは同義ではないのか。


翻って、近年の甲斐バンドはその「有り様」を示してきたのではなかったか。様々な環境における甲斐バンド、甲斐バンドの一側面、一表層、そのどこかに焦点を当ててツアーを行ってきたのだとわしは考えている。人間は多面的、多角的な存在であるとはわしの座右の銘であるが、甲斐バンドもまた、多面的、多角的な存在であった。その一つの面がクラブ・バンドであったり、ストリート・バンドであったり、そのある種表層的な面を示してきたのが、平成末期の甲斐バンドである。


では令和最初の甲斐バンドはどうだったのか。同じようにある一面を示したのだろうか。


などと言うだけでそう思ってないことは自明であろう。その通り、わしはそんな風には到底思えない。これほど甲斐バンドのメンバー三人の顔が出たライヴを、わしは知らない。しかもこれほどにまで強調されて、尚且つ尖って。甲斐バンドは、甲斐よしひろ、松藤英男、田中一郎の三人のバンドなのだ。言葉で言えば単純な真理である。根本原理である。それを音で示したのが、このライヴだったのではないか。しかもこの点で、「Repeat & Fade」との差異が露わになる。「Repeat & Fade」では「個々のプロジェクト」という形でそれぞれの個性を示した。ここにはバンドのサウンドも、グルーヴも存在し得なかった。対してこのツアーでは、「バンド・メンバー」としてそれぞれの個性を強烈に示しえた。バンドのサウンド、グルーヴの中にあって尚。


つまり、令和最初のバンド・ムーヴメントにおいて、甲斐バンドはその根本原理を提示して見せたのだ。三人の個性が鋭角的に結晶化したものが、甲斐バンドであると。多面体の中心が、これなのだと。


解りきっていることではある。しかし自明である事実であろうと、それを言葉ではなく音で示すことは、決して容易なものではない。それをこのキャリア、あえて言えば年齢でやってのける。しかも、進化し続ける。


餓鬼道だか修羅道だかよく解らないが、令和のこの時代も、このまま進み続けるのが、これもまた、甲斐バンドなのであろう。


次は如何なる甲斐よしひろ/甲斐バンドなのか。心待ちにしたい。

 
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